林さん

大学の友人に、林さんという人がいる。
一学年上に編入してきた人で、一緒に実習などを受けたのだが、すごく面白い人で、一緒にいて飽きない。

彼は東大出身で、もともと宇宙工学か何かを勉強していたのだが、色々あったらしく(なかなか聞き出せない)、編入試験を受けてみたところ合格したので入学したそうだ。ジャニーズとかモー娘。のオーディションでよく聞く話だ。

彼は勉強をサボるくせがある。では勉強をサボって何をしているのかというと、勉強している。今日も、試験のある科目の教科書を閉じ、統計力学の勉強をしていた。わけがわからない。
「林さん、勉強はやめて、勉強してください」というのは、僕の周りで流行っているジョークだ。特にうまい返しを思い付かないのか、林さんは笑っている。

学問を志して大学に入ったにもかかわらず、現実は学問とは程遠く、試験対策ばかりしていたり、人の点数を聞いて一喜一憂しているような周りの人間が嫌だった。そして自分も、ある時偶然良い点数を取った時、喜んでいる自分に気付き、自己嫌悪に苛まれた。そういうことを林さんに相談すると、的確な答えが返って来る。
「僕たちがいる学部ってのは奥が深くて、おそらく先生たちもわからないことだらけだろう。たしかに試験勉強をすれば、試験範囲でわからない事はなくなる。点数も取れるだろう。でもそこで勉強をやめずに、試験勉強の先の、自分が実はまだ何もわかってないって気付ける所まで勉強したら、何か見えるかもしれないよ。」
学問は自分の外側を厚くする事だとばかり思っていたが、内側に掘り下げる事もできるのだ、というより、むしろそれが本質だと教えられた気がした。